川田研究室 > 研究概要
 層間高靱性化CFRP積層板の面外方向疲労特性評価
図 面外方向繰り返し負荷により  
破断したCFRP積層板     

 従来薄板として利用されることが多かったCFRP積層板ですが,その優れた機械的性質を一次構造部材として利用するため, 現在では厚肉部材への適用が進んでいます.しかし,CFRP積層板は強い異方性(特性が方向に依存する性質)を示すことから, その板厚方向である面外方向特性評価が急務となっています.

 本研究室では面外方向の疲労特性に注目し,航空機に使用されている層間高靱性化CFRP積層板に面外方向から繰り返し荷重が作用したときの特性調査を 行っています,また面外方向疲労破壊のメカニズムを調べることで,材料の長期信頼性向上を目指しています.


 繊維強化プラスチックの海水環境下における寿命予測
 図 海水中における       図 各温度における負荷応力と  
定荷重引張試験の様子  破断時間の関係および予測寿命曲線

 繊維強化プラスチック(FRP)は強化繊維を母材樹脂が覆っているため水や塩酸に対して良い耐食性を示します. そのため風車ブレード,化学薬品タンクなど様々な腐食環境下で使用されています.この耐食性を活かそうとして大型船舶や洋上風力発電など 海洋分野へFRPを利用する動きが近年,活発になっています.

 しかし,海水環境下は水圧による定荷重や波浪負荷による繰り返し荷重が作用し, 様々なイオンが溶解している過酷な腐食環境です.これら複数の環境因子が複合的に作用した状態においてFRPは急激に劣化し,耐久性が大幅に減少します. 海洋分野へのFRP適用拡大のためには耐久性および寿命を正確に予測することが求められますが,海水環境下におけるFRPの寿命予測に関する研究はあまり行われておりません.

 そこで,本研究では海水に浸漬した状態でFRPの定荷重引張試験を行い,FRPの海水環境下における寿命予測を行います.



 FRPの衝撃特性に関する研究

 航空機や自動車等FRPの導入推進率の高い構造物において安全性の指標となる耐衝撃性に焦点を当て, 準静的負荷〜ひずみ速度100s-1以上の衝撃負荷領域でFRPの機械的特性の評価を行っています. 一般に全ての材料はひずみ速度依存性を有し,準静的負荷下と衝撃負荷下では異なった力学特性を示します. FRPは強化繊維,母材樹脂,繊維/樹脂界面から構成されるため,ひずみ速度依存性に関しても各構成基材の特性が複雑に絡み合った結果となります.

 FRP自体の衝撃特性・破壊様式と共に構成基材である炭素繊維やガラス繊維,母材樹脂の衝撃特性を評価することで, 衝撃負荷下におけるFRPの強度発現機構を解明し,耐衝撃性に優れる材料設計・構造設計に対する指針を得ます.

(a) 静的試験     (b) 衝撃試験     図 FRPの強度のひずみ速度依存性
図 ガラス繊維束の静的・衝撃引張試験                             



 新機能性材料(EAM)の特性評価

 EAM(Electro Attractive Material:電気的吸引材料)は電気絶縁性媒体中に誘電体粒子を複数回に分けて混練することで製造する ゴムシート状の機能性材料です.このEAMシートを一対の電極板で挟んだ状態で電圧を印加し片側の電極板を動かすとせん断抵抗力が発生します. また,そのせん断抵抗力は印加電圧を変化させることで調節することが可能でEAMシートを用いたデバイス化が期待されます.

 本研究では印加電圧を調節することにより抵抗をコントロールできるEAMブレーキの実用化に向けて摩擦トルク特性,耐久性について調査を行っています.

 図 EAMシート                   図 EAMブレーキ         



 CNT分散性評価

 次世代の機能性材料として期待されているカーボンナノチューブ(Carbon nanotube; CNT)を樹脂中に分散させることで, 優れた機械的特性を有する複合材料を作製する研究を行っています.CNTは凝集性が高く,有機溶媒や樹脂への分散性が困難であることが知られていますが,

 本研究では有機溶媒中において電極間で発生した放電を利用してCNTの表面処理を行い, CNT同士の凝集力の低減や後工程として樹脂と混合する際の親和性の向上に取り組んでいます.


 CNT糸の機械的性質改善

 CNTは数μm(×10-6m)程度の非常に「短い繊維」です.しかし,CNTのような短繊維は取り扱いが難しく用途が限られます. そのためCNTを炭素繊維やガラス繊維のように長繊維化することが課題です.2002年にCNTを紡績して一本の糸にする技術が開発されました. CNT同士は強いファンデルワールス力で結合しているため,糸状を維持することができます.

 本研究では複合材料への適用に向けたCNT糸の機械的性質改善を行っています.

          図 CNT無撚糸の作製過程             図 CNT無撚糸            



 CNT析出繊維を強化材とした階層型FRPの力学特性評価

 CNTは近年FRPの添加材としての利用が検討されており,その手法の1つとして強化繊維表面へのCNT析出が挙げられます. 繊維上へ直接CNTを成長させることで,母材樹脂と複合化した際に生じるCNT凝集体の低減に加え,繊維/樹脂間の界面特性の向上が期待されます.

 本研究室では特に,フラグメンテーション試験によるミクロスケールでの界面特性評価や,CNT析出繊維を強化材とした階層型FRPの機械特性の調査を行っています.

 図 カーボンナノチューブ合成装置      図 CNT析出炭素繊維     
(熱CVD装置)